「人が怖い」ということ、それ自体はごく当たり前な現象であると言えます。この世界のほぼすべての人々は例外なく他者、特に初対面の他者に対しては恐怖心、警戒心を持っています。
ですが、そうしたごくありふれた恐怖感も、度が過ぎた場合には社会生活を送る上での大きな障害となる場合があります。
では、何故人は他者に対して恐怖を感じてしまうのか、今回は、そうした心理構造についてお伝えします。
「他人が怖い…」対人恐怖症を克服せよ
過去の対人関係にトラウマがある
過度な対人恐怖における原因として最も多いのが、過去の対人関係のトラウマを引きずっている、ということです。数ある対人関係の内でも幼少期の家庭における親子の関係はその後の子どもの人生に特に大きな影響を及ぼすということが知られています。
こうした「幼少期における家庭環境の問題」は1970年代のアメリカから広く認識されるようになって行きます。
当時、アメリカにおいて非行や犯罪歴、対人トラブルなどを抱えた人々をケアするソーシャルワーカーたちは、そうしたトラブルを抱えた人々のうち多くがアルコール依存症の親の元で親から放任されるような形で育ってきたということを自分たちの経験から認識するようになって行きました。
そしてそのような環境で育ち、成人後にも問題行動を引き起こす人々を「アダルトチルドレン」と呼ぶようになったのです。この「アダルトチルドレン」という言葉は1980年代には日本にも伝えられ80~90年代にかけてちょっとした流行語のようになりました。
一方でその後、親が子どもに対して「これをしろ、あれをするな」と過度に干渉をする「過干渉」もその後にわたって子どもの対人関係に問題を生じさせやすいということが理解されるようになってきました。「放任」と「過干渉」の双方に共通するのは親が「子どもの人格」を尊重していないという構造です。
自らの人格が尊重されない環境で育った子どもはその人格の根本における自己肯定感が低く、それ故に他者に対して「自分を嫌っているのではないか」「自分を攻撃しようとしているのではないか」という疑念が常に働き、結果として他人と関わるのが怖くなってしまうということです。
また、家庭環境ほどではないものの、学校生活における対人関係もその後の対人関係に大きな影響を及ぼすということが知られています。
特に日本の学校の場合は閉鎖的な「クラス」において固定されたメンバーと集団的な行動を取るということが多いため、青少年の時期において「学業」や「趣味」よりも「人間関係」のファクターの比重が大きくなり、それがその後の人生における対人関係への過敏さへと繋がっていってしまうという指摘もあります。
さらに学校生活以外にも社会人となってからのセクハラやパワハラ、過重労働なども対人恐怖の要因となることがあります。
自己を他者に投影している
「投影」とは、自己の持っている性質を、他者の持っている性質として認識するということです。
例えば自分が他者や周りの環境に対して良い感情を抱いていない時、他者や周りの環境も自分に対して良い感情を抱いていないのではないか、という風に考えたことのある人は少なくないのではないかと思います。
このような心理構造を「投影」と呼ぶのです。他人に対して恐怖や憎悪、不信感を抱いている人は自ずと自らが他者からそのように思われていると考えるようになっていきます。
「投影」は古今東西の多くの独裁者に見られる心理的傾向でもあります。
例えば織田信長は比叡山焼き討ちなど、多くの人々を虐殺し、また自身の母親から室町幕府の足利将軍家まで多くの人々を裏切ってきましたが、その反面部下からの裏切りや反逆を強く恐れ、歳を取るにつれて多くの家臣を些細な理由で追放したり殺したりしていきました。
同じようにソ連の二代目最高指導者であるヨシフ・スターリンも多くの政敵を殺害しましたが、これは自己の抱いている対人不信、対人恐怖を他者に投影していたからだと言われています。
まずはしっかりと自分を見つめよう
人が怖いという心理を克服するためには、まず自分自身がそのような考えを抱きがちであるということをしっかりと認識することが必要で、そうした認識を持つためには「何故そうなってしまっているのか」を理解する必要があります。
そうして自らの認知パターンを客観的に認識できるようになったならば、常にそのようなパターンに陥っていないかを意識ながら行動をし、もしそうなってしまっている場合には適時修正を加えていくことを心がけましょう。
そして何よりも大事なのはたとえ「他人が怖い」からといって、そうした感情を露骨に態度として表出してしまわないということです。それは他者に対して礼を失する場合もありますし、そうした心理的な弱点を相手に晒すことにもなってしまいます。
あなたの心がけ次第で、人が怖いという心理はいくらでも改善することが可能なのです。まずはしっかりと自分を見つめ、それを実際の行為へと反映させていってみてください。
まとめ
「他人が怖い…」対人恐怖症を克服せよ
・過去の対人関係にトラウマがある
・自己を他者に投影している
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